高齢者の生活の質を向上させるには
QOLとはQuality of Lifeの略で、日本語では「生活の質」や「人生の質」と訳されることが多く、生きていく上の満足度を表す指標です。1994年にはWHOがQOLを「一個人が生活する文化や価値観のなかで、目標や期待、基準、関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認識」と定義しています。簡単に言い換えれば、「高齢者本人の主観的な幸福感」とも表現できるでしょう。
高齢になり介護が必要になった場合、以前の生活とは環境が異なってしまうことも少なくありません。生活範囲が狭くなったり人と接する機会が少なくなったりしてしまうことも多くなってしまいます。そのような状態になったとしても、高齢者本人が自分らしい生活をできるように注力するのがQOLの考え方です。
QOLを向上させるには、「より良く生きるにはどうすればよいか」という点にフォーカスします。そのために、まずはリハビリや経済支援、生活環境などを整備して、高齢者の方が快適に生活できる体制をサポートします。そして高齢者自身に生きがいを見出してもらい、自分らしい生き方をしてもらうといったことが挙げられます。
高齢期のQOLを阻害する要因となりかねない疾病3選
高齢期に要介護状態となり、QOLを阻害するものはたくさんありますが、その多くは病気やケガです。認知症はよく知られているかと思いますが、そのほかにも骨折や関節疾患、糖尿病などが挙げられます。ここでは、QOLを下げる要因となる代表的な3つの疾病について確認してみましょう。
l 認知症
認知症とは、脳細胞の機能的低下や脳細胞の死滅によって記憶障害や時間、場所が分からなくなる見当識障害、実行機能障害、判断力障害などのほか、徘徊、暴言、妄想、抑うつなどの症状がある疾病です。
65歳以上の認知症高齢者数と有病率の推計では、2012年では467万人と約7人に1人の有病率であるのが、2025年には約5人に1人になるとされています。
認知症は老化による物忘れと混合しやすいですが、次のような違いがあります。
項目 | 老化の物忘れ | 認知症 |
原因 | 生理的な老化 | 脳細胞の死滅など |
物忘れ | 体験したことの一部を忘れる。ヒントを与えられると思い出す | 体験したことをすべて忘れる。ヒントを与えられても思い出せない |
症状の進行 | 進行はあまり見られない | 徐々に進行する |
自覚 | 物忘れがあることを自覚する | 物忘れの自覚がない |
判断力 | 低下しない | 低下する |
日常生活 | 支障なし | 支障あり |
現在、認知症を根本的に治療する方法はなく、早期に発見し適切な治療を行うことで、症状をやわらげ進行を遅くすることが可能であるとされています。
l 骨折や関節疾患
骨折によって要介護になる高齢者の方も少なくありません。高齢になると身体的な衰えから転倒し骨折してしまって、そのまま介護が必要な状態になってしまうのです。
特に、高齢者の場合では、大腿骨近位部骨折、脊椎圧迫骨折、上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折などが多く見られます。いずれの骨折も原因のほとんどは転倒ですから、要介護を防ぐためにも日ごろから転倒防止に注力しておく必要があるといえるでしょう。
また、関節疾患から介護になってしまうケースも多く見られます。関節疾患とは、関節の変形などによって生じる病気のことで、変形性関節症、関節リウマチ、偽通風症などが挙げられます。
多くの関節疾患では、初期症状として立ったときや歩き出したときに痛みを感じます。進行していくと階段の上り下りや歩行自体が困難になるほどの痛みを感じるようになります。
l 糖尿病
糖尿病とは、インスリンの分泌量が減ったり、インスリンが機能しなくなったりすることで、血糖値が上昇した状態が続く病気のことをいいます。
糖尿病の患者数は2017年では328万9,000人で、その半数が65歳以上の高齢者です。つまり、高齢者の糖尿病患者は150万人ほどいるということになります(※)。
糖尿病になると血管が障害されることで、認知症や失明などさまざまな合併症を招いてしまいます。高齢者のQOLを大きく低下させてしまう可能性がありますので、いかに早期発見、早期治療するかが重要なポイントです。
まとめ
平均寿命は延びているものの、高齢期の生き方を考えるためには、いかに健康寿命を延ばしていくかが重要です。そのためには、QOLを高めることが大切だといえるでしょう。
QOLとは、生活の質のことで、どうすれば高齢者が「よりよく生きるか」ということにフォーカスします。また、QOLを上げるには、高齢者本人らしい生活ができるように周囲の人がサポートすることも大切です。
QOLを下げる要因の多くは疾病です。たくさんのものがありますが、代表的なものとしては認知症、骨折・関節疾患、糖尿病などが挙げられます。
早期発見をすることで症状を遅らせたり、疾病を防いだりすることが可能ですので、普段からの対策が重要になります。
参考:
2、高齢者が生き生きと生活するための知識~生活の質を阻害する疾病とは?~